10月20日。
その男は、朝から異常なほど焦っていた。
新たに結んだ選手契約に盛り込まれた、たった一行の文字に・・・。
「団体行動の規律を乱した場合は、最低保障年棒ベースの給与体系に、即刻変更する」
羽山俊介...かつて際立った勝負強さと、軽やかなフィールディングでチームを救い、多くの熱狂的ファンを生んだ名選手の栄光も、今や昔。
それまで12インチの硬球に夢中になっていた彼は、社会の甘い誘惑に次から次に誘われ、試合から離れていくとショートのレギュラーを奪われ、いつしかファンの記憶からも存在が薄くなっていった。
心機一転、テストからの再契約でこのほど入団した、かつてのスーパースター。だが、そこはやはりスーパースター。腐っても鯛、千切っても錦。やる事なす事、規格外に派手なのだ。
(携帯電話のやり取り)
監督「もしもし?集合10分前だけど、今(武蔵野線の)どのあたり?」
羽山「・・・まだ、さいたま市に入っていないです」
再契約初日に遅刻!(・0・)
こうして金銭面のダメージをなるべく抑える、契約上の優遇措置も取り消され、240万円(推定)の最低保障額で彼の再契約は確定した。
あとは試合で活躍すれば出来高で多少は上積みされるのだが、大幅な年棒ダウンは避けられない見通しとなった。
羽山選手のコメント
「この悔しさ、絶対に試合で晴らして見せます!」
・・・その前に遅刻をしないようにして下さいよ。
(なお、ここまでは遅刻したこと以外は、フィクションです)
さて、羽山選手の遅刻も想定の範囲内で始まった本日の第一試合。
メガロリーグ公式戦でも、最大の人気カードとも言われるレンジャース対ボルメッツ戦。
今日のレンジャースは強力な助っ人を配置し、打撃戦大歓迎!の様相。
お互いの手の内をよく知るレンジャース・コージー、ボルメッツ・志村両投手の先発で試合開始。
初回のオモテ、志村の立ち上がり。制球はかなり良く、メガロリーグのストライクゾーンにも何とか対応。
レンジャース打線がまだ目覚める前でもあったが、うまく球を散らして初回をゼロに抑える。
するとそのウラ、ボルメッツ打線が一気に爆発。
先頭打者に抜擢された原田が四球を選び、続く山口の内野安打でチャンス拡大。
ここで3番・大島兄が期待通りのフルスイング。打球はフェンスをはるかに越えて3点先制。
序盤の流れはアリはおろか、微生物でも入る余地がないほど完璧なボルメッツペース。
その後も米谷・折原と連続安打。続く宇野の打球が敵失を誘い1点追加に成功。
さらに羽山のタイムリー内野安打や、小室の内野ゴロの間にも追加点。打順が一巡して原田がタイムリーを放ち、初回だけで8得点。これ以上ない大きなリードをもらう。
2回にも大島兄がソロアーチ、5回に羽山がタイムリーで中押し。追加点はなかなか奪えないものの、チャンスは確実にものにするソツのなさを見せる。
かなり好調なレンジャース打線相手に、一発を喰らいながらも5イニングを6失点とまずまずの投球を見せていた志村だったが、6回についに掴まる。立て続けに三遊間方向やレフト前、左中間に長短打を浴びて逆転まで許してしまう。
初回の大量得点以降、好投するコージー投手からなかなか追加点が奪えなかっただけに、ゲームの流れ上のアヤで精神面の脆さを露呈するのは如何なものか。
気持ちが昂ぶっても状況は考えてもらいたい。
なんとか1点差を追い付こうとしている最中、7回にはレンジャースの助っ人に手痛い一発を浴びてしまい、ビハインドを3点差まで拡げられる。
しかし、これで終わらないのがこのカード、そしてこの両チーム。
1アウト1・2塁から宇野がタイムリーを放って2点差。さらに羽山の3安打目となる内野安打でチャンス拡大。
続く志村がSFのエラーを誘い(記録はヒット)、羽山が2塁へ気迫溢れるスライティングを見せて、ホーム生還をナイスアシスト。これで1点差に詰め寄る。
ここでバッターは小室。しかし打球は無情にもファーストグラブに収まる小フライ。
さらに続く小松。ライト方向へ打球は飛ぶが、ライトの真正面。
勝敗の鍵を握っていた湿りっぱなしの下位打線を責めるつもりは毛頭無いが、最後はあと1本が出なかったボルメッツ。
勝てた試合を落としただけにショックは大きいが、収穫の多い一戦だった。
とくに序盤の集中打、終盤の打線の粘りは見事だった。
また6回に追い付かれてはいるが、大きなエラーを犯さずに、点の取り合いとは思えない締まった展開にしたのも大きな収穫だ。
この試合では折原が4打数4安打、大島兄と羽山が4打数3安打と大暴れ。
このカードではゲーム展開のアヤとか、小さな要素が大きな勝利に結びついたことがあるのだし、今回のように上手く行かない事もあるのだと考えたい。
文責/志村 写真/デジカメが不調の為撮影できず
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